「紫のゆきて」の歌
この作品で、各話を彩る歌は、すべて古典の「伊勢物語」から取っています。
(作中では、現代語訳して使っています)
登場する歌ごとに、それが伊勢物語の第何段にあるのかを、ご紹介します。
なお、歌が読まれた状況は、原典の様相をそのまま拝借したものもあれば、
作品のストーリーにそって、作者が創作したものと両方あります。
原典にご関心のある向きは、別に作者が現代語訳しました
伊勢物語(全125段)を公開しておりますので、ぜひどうぞ。
伊勢物語 13段 武蔵鐙(むさしあぶみ)
(1)武蔵鐙 さすがにかけて 頼むには
問はぬもつらし 問ふもうるさし
(2)問ヘば言う 問はねばうらむ 武蔵鐙
かかる折にや 人は死ぬらむ
↓
「紫のゆきて」 第3話 手紙
(1)武蔵鐙(むさしあぶみ)をかける止め具のように あなたをかけて 頼りとしております
それで お返事しないのもつらいけど こんな知らせをしてくるのも わざとらしいわ
(2)手紙を送っても 送らなくても うらまれる武蔵の私
こんな時 人は死んじゃうのかも
伊勢物語 41段 紫草
紫の 色濃きときは 目もはるに
野なる 草木ぞ わかれざりける
↓
「紫のゆきて」 第6話 衣
紫草の 色が濃い時は 目で見るはるか先まで
野の草木の緑と おたがい色の違いはないのです
伊勢物語 12段 武蔵野
武蔵野は 今日はな焼きそ
若草の つまも こもれり 我も こもれり
↓
「紫のゆきて」 第7話 火煙
武蔵野は 今日は 焼かないで
大切な あの人もいるし わたしも かくれているの
伊勢物語 115段 都島(みやこじま)
(1)おきのいて 身を焼くよりも 悲しきは
都しまべの 別れなりけり
伊勢物語 11段 空ゆく月
(2)忘るなよ ほどは雲いに なりぬとも
空ゆく月の めぐりあふまで
↓
「紫のゆきて」 第8話 出立
(1)こころの残り火で 身を焼くよりも つらいのは
都と郷(さと)とで 別れることです
(2)おぼえていてください 遠く離れ 雲のようになっても
空に月がゆき まためぐり会うまで
伊勢物語 10段 田の面の雁(たのむのかり)
(1)三芳野(みよしの)の たのむの雁も ひたぶるに
君がかたにぞ 寄ると鳴くなる
(2)我がかたに 寄ると鳴くなる 三芳野の
たのむの雁を いつか忘れむ
↓
「紫のゆきて」 第10話 ついの文
(1)みよしのの 田の小さな雁(かり)も あなたを頼りに ひたすら
あなたのほうに行きたいと 鳴いていますよ
(2)私の方に寄りたい そう鳴いているという みよしのの小さな雁
これからいつも 忘れることはありませぬ
以上、少々長くなりましたが、ご紹介いたしました。
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